近所に、町が管理している森がある。夜になると光が届かない。意図された安全性の除去がある。意図して森から安全性を遠ざけたデザインとなっている。誰もがわかっているから誰も文句を言わない。わたしは夜になると森を歩く。安全性の欠如を求めている。道は昼間の歩行者向けに整備されている。靴底に枯れ葉と土の軟らかさが伝わる。夜のなかを進む。森に入ったときは1メートル先すら見通せない。けれど突然にものが見えるようになる。夜目という言葉を意識する瞬間があった。じんわりとした興奮が生じる。森を進んでゆく。距離、道幅、ルートのすべては頭に入っている。迷わず進んでゆく。そんなわたしを定点カメラで撮影したことがある。真っ暗ななか、光を放つ目のみが宙に浮かんだような眺めだった。きっと今のわたしもそうだろう。目が目の前に現れる。こちらへと近付く。横を通り抜けてゆく。気がつけば、いくつもの目が宙に浮かんでいる。行き交っている。誰もが心安らかな目で、安全性の欠けた森で息をして、闇に浸っている。わたしはそのなかの1つとして溶けこんでいる。