見てればわかるやつとやつ。そんなことをよく口にする上司がいる。わたしはそんな上司を見ていることにする。上司が言う相手は確かにいろんな分野で頭角を現す。頭角を現さないまでも、そいつを認める人が出てくる。人材業界であれば活躍できたのかもしれないけど、わたしたちの仕事は仏像彫師である。上司が口を動かすときは木に向き合っているときだ。上司は木目になにを見ているのか。わたしが見ていると上司もわたしを見る。「お前も見るんだ」わたしは床に座り、1メートルほどの木材に向きあう。じっと見る。木肌のごつごつが変質する。意思とは無関係に形や性質を変える。それは社会へ、情勢に、そして人になる。わたしにも見えつつあるようだ。なにが見えるのか、わたしは木肌をにらみ続ける。上司がそんなわたしを見ながら口を動かす。「悪くない仕事だ」わたしの見ているものとは無関係に、わたしの手はものすごい速度で木を削り、仏性を形をにしていく。