なにかが視界に入っている。なにかがわたしを刺激している。スマートウォッチの健康センサが乱高下している。わたしは周囲を見回す。なにもかもが疑わしく、なにもかもがわたしに関わりないように見える。瞼を閉じる。通勤時間帯のスクランブル交差点のど真ん中で地面に腰を降ろして座禅を組む。息を吸い、息を吐く。何度も繰り返す。刺激は刺激のままとなり、どこかに地歩を占めて落ち着く。わたしは瞼を開く。すると物理的な一切が消失していた。わたしの肉体もその限りではない。だとすると、わたしはなにに刺激を受けていたのか。視界に入っていたものはなにか。わたしは瞼を閉ざす。息を吸い、息を吐く。どこかに消えた刺激の到来を待つ。いつか戻ってくる。わたしにはその予感がある。