あらゆるものが、決まった時間に上を向く。あらゆるものは雑然としている。手には洗いかけのお皿を手にしたままだったり、捕食せんとする獲物をくわえようと口を半開きにしたままだったりする。それでも眼だけではなく、首を曲げ、上を向く。その仕草にはある種の整然がある。見上げた先には空間がある。空がある。宇宙があり、無はない。有のみがある。あらゆるものの視線の先には天体があった。天体の表面に無数の立方体が生じる。無から有の体現。天体の地表が発火し、立方体が打ち出される。天体の自転軌道を利用して加速してゆく。立方体の表面を数式がうごめく。数式が立方体の内部に沈み、軌道の進路や速度の微調整を行う。立方体は真空を進む。あらゆるものが生きる天体へ突入した。進入角度は完璧に計算されており、摩擦熱がほとんど生じない。加えて摩擦を無化するための重力操作機能があるため、立方体は傷ひとつなく大気圏を突き破る。あらゆるものの視線が立方体をとらえる。あらゆるものの口からは多数の言語による表現が飛び出す。けれど意味するところはひとつ。 願いよ、我が元へ。 立方体は1つだけ。つまり落下地点はひとつ。表現の増加はとどまるところを知らない。立方体は落下してゆく。さて、誰の表現に応えたのか。あらゆるものは立方体を前にしたモノがいかなる表現をしたのか耳を傾ける。立方体が地面に衝突し、1000キロメートルの高さまで土砂を跳ね上げ、その表現は衝撃波のマッハディスクという形となって、あらゆるものをなぎ倒してゆく。