「ワシの聞いたところによると、西方には極小の粒子を神とする話があるそうな」シロが40個めの空になったハーゲンダッツの容器をわんこそばみたいに重ねる。ふらふらと揺れるカップタワーはジェンガを連想させる不安定さだ。「そうなんですか?」マサキは腕を掻く。「なんじゃ、まだ痒いのか」「狂犬病にならないでしょうねこれ」「もう何年たってると思うておる」「ですよね。それでさっきの話は」「うむ、クォークなりをさらに分割した先にあるものに対して、神学的解釈をしようとする者がいる、あるいはいたらしいのよ」「エクトプロンを霊子と訳すケースもあるらしいしですね」「ふむ、いかにも霊的で科学を超越していると言いたげな響きさ」「ですが、仏教にも極微という用語があります」「極小のものに対するある種の思想は西洋を問わないという結論か」「同じ脳を使って考えるのだから、似たような結論に至っても不思議じゃないでしょう」「原型の話さな。つまらぬ」「シロ様には面白いことがあるんですか?」「極微の粒子は物質的な神と見なし、粒子を資源と見なす動きがある」「………………」「資源ならば発掘できるし、蓄積できるし、交易もできる」「あと、戦争の多くは資源争いが原因ですね」「楽しいであろう?」シロは楽しそうに笑う。話は面白い。けれどシロの笑いがどうしてか気に入らない。「シロ様、資源で思い出しました」「んむ? なにさ」「さっき食べたので我が家のハーゲンダッツが枯渇しました」「なんと!?」反撃成功。マサキは外を指さす。「……なにさ」「資源は輸入することもできます」「ラムレーズンにしておくれ」「一緒に行きましょう」「よかろう」シロは笑う。マサキも微笑み返す。