宮殿の広間には長さ100メートルあるテーブルがあり、世界各地の料理が並んでいる。大量の装飾品覆われているため顔と手しか見えない女性がイチジクを皮ごと食べている。マッチョマンな男性がストローで熊のスープを胸お腹いっぱいに吸いこんでいる。私は周りを見回す。誰もがなにかを食べている。美味しそう、話のネタにするため、嫌々、いろいろ。私も料理を食べようとテーブルに近づく。地響きがする。誰もなにも気にしない。なので私も気にしない。圧倒的多数派の意見は鵜呑みにすることにしているのだ。お皿にサルの脳をソテーした料理、本物の知恵の実らしきリンゴで作ったパイ、敵国の将軍の腸を使ったソーセージ、などなど。むしゃむしゃ、ごくん。言葉がない。それくらいおいしい。しかし味を表現するのに言葉が必要なのがもやっとする。地響きが2度。誰もなにも気にしていない。食事が続く。誰もが延々と食べ続けている。だから私も食べ続ける。地響き。天井が爆発し、大量のがれきが降り注ぐ。何人かががれきの下敷きになる。周囲のあちこちから地響き、それから炸裂音。宮殿を取り囲む敵性分子の襲撃が本格化したのだ。天井に空いた穴からロープが垂れ下がる。空挺部隊がラペリング降下してくる。兵士は一直線にテーブルめがけて落下する。お皿の上に着地する。兵士が皿のなかに吸いこまれ、精進料理へと姿を変えてゆく。それはシュレッダーに紙が飲みこまれる過程に似ていた。兵士たちが次々と平皿やパンチで満たしたボウルに吸いこまれてゆく。新たな料理となり湯気が立つ。宮廷に招かれた客たちは料理にむらがる。人々の後ろ姿でテーブルが隠れて見えなくなる。いつまででも食べ続けている。それを私はじっと見る。突入してきた敵性分子の先遣隊のリーダーらしき男性がわたしにの横に立つ。「なにをやっているんだあれは?」「見ていればわかる」深くうなずいた兵士は口ひげをなで、その手でグルカナイフをなで、テーブルめがけて投擲する。装飾で全身を鎧う女性の背中に突きささる。女性は前のめりに倒れた。兵士は女性の背中からグルカナイフを引き抜く。刃についた血を舐めて、それから女性のことなど存在しないも同然な客たちは料理を食べ続けている。兵士は私のところに戻ってきて、口ひげを撫でてから苦々しそうに口にする。「私たちはアレと戦争をしているつもりだったのだが、どうやらそうではないらしい。彼らにとって私は存在しないのがわかった」兵士は刃についた血を携行食糧に塗りたくって食べる。「だとすると、私は、私たちは、なにをしていたのだと評価すればいいのだろう?」「それを考えると自殺したくなりますよ」「そうかもしれない」兵士は綺麗な上流階級の発音を口にして、それから顎に手を当てて眉間にしわを寄せる。寄せ続ける。兵士の姿は料理を食べ続ける人間とどこか重なる。